奈良市の大渕池公園。昼間は賑やかなこの公園も、夜にはひんやりとした静寂が漂う。池のほとりには、かつて姿を消した人々が戻れずにいると言われている。特に、親子連れの姿が目撃されることが多く、夜道を歩くと誰かが近くにいるような不気味な気配が感じられるという。
1993年のある夜、奈良市のとある公園に奇妙な自動販売機が出現した。噂によると、その自販機は特定の曜日にのみ現れ、「心霊写真」を販売していた。その写真に写る子どもたちは、なぜか現実にはいないはずの者ばかりだった。そして写真を買った人々は、次々に姿を消してしまうという。地域の子どもたちは恐れを込めて、その自販機を「失われた者たちの箱」と呼んでいた。
そんな噂の真相を知るため、ある母親が調査を始める。その女性、佳奈(かな)はかつて公園で息子の悠斗(ゆうと)を突然見失ってしまった。佳奈は悠斗の行方を追うため、当時の噂や出来事をかき集めるうち、次第に「コトリバコ」という呪物の儀式に辿り着く。それは、子どもたちの魂を閉じ込め、永遠に囚われのままにするという恐ろしい儀式だった。
佳奈は真夜中、公園を訪れ、自動販売機を探し当てる。震える手で硬貨を投入し、写真を取り出すと、そこには悠斗の姿が写っていた。写真の中の悠斗は、助けを求めるかのようにこちらを見つめている。写真を見つめ続ける佳奈の背後に、ひやりとした気配が忍び寄る。振り返った瞬間、佳奈もまた姿を消してしまった。
それ以来、その自販機は公園から姿を消した。しかし、夜が深まると池のほとりで佳奈と悠斗が並んで歩く姿が目撃される。佳奈の肩には、そっと寄り添うように悠斗の小さな手が添えられているのだった。